東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2289号 判決 1963年3月06日
判 決
控訴人
徳田朋重
右訴訟代理人弁護士
田畑喜与英
被控訴人
伊藤協介
同
小野里陽正
同
柴野多喜男
同
牧野曠三
右被控訴人四名訴訟代理人弁護士
島田徳郎
右当事者間の昭和三十七年(ネ)第二、二八九号仮処分取消命令申立事件につき、当裁判所はつぎのとおり判決する。
主文
原判決を取消す。
被控訴人らの本件仮処分取消の申立を却下する。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
事 実(省略)
理由
被控訴人らが本件取消を求める理由として主張する事実並びに本件仮処分が控訴人主張の経過により一四日の執行期間を経過した結果、その執行力を失つたこと、控訴人が右の事由により右仮処分につき裁判所があらかじめ立てさせた保証金の取戻を得たこと、右仮処分決定正本が今日まで被控訴人らに送達されていないことは当事者間に争がない。
控訴人は、本件取消の申立は法律上の利益を欠くから却下されるべきものであると主張する。もともと保全処分の債権者に対する起訴命令は、債権者が保全処分をしながら本訴を提起しないでいるため、本案についての審理が行われず、保全処分がいつまでも存続することによる債務者の不利益や浮動状態を除去することを主な目的とするものである。もつとも執行力の喪失や保証金の取戻は、それだけで直ちに決定自体の効力を消滅させるものではないから、執行力の喪失や保証金の取戻しがあつても、決定自体はなお形のうえでは今なお効力を有することになる。しかし本件においては、仮処分は控訴人主張のとおりこれまで全然執行されでいないし、既に執行期間の徒過によりその執行力を失い、まして仮処分命令の前提として供託された保証金も還付された今日、仮処分が執行されて被控訴人らが何らかの損害を被つたり仮定的暫定的な浮動状態を生ずるおそれはなく、その他決定が存続することにより被控訴人らが法律上の不利益を受けるおそれがあるとは認められない。
よつて本件取消の申立は、これを求める法律上の利益を欠くものであり、これを認容した原判決は失当であるからこれを取消し、被控訴人らの本件取消の申立を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条第九三条を適用し、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所一二民事部
裁判長裁判官 千 種 達 夫
裁判官 渡 辺 一 雄
裁判官 太 田 夏 生